『少年検閲官』北山猛邦

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

8/9読了。79冊目。
ミステリとは何なのか、ミステリが滅んでしまった世界で考えること。
焚書によって書物が消え去ってしまった世界で、父から教えてもらったミステリの存在を探し求めるイギリス人少年クリスが、日本の村で殺人事件と遭遇するというストーリー。村では『探偵』と呼ばれる謎の人物が村人を拉致して屠っているという噂が囁かれ、事件を解決する側の存在のはずの探偵が、ミステリの存在を誰もが忘れてしまった世界では犯人になってしまう逆説にクリスは戸惑う。
ミステリ批判はミステリのコードを自覚的に逸脱することによって多くなされるように思う。でもここで行われているのは、ミステリの存在の意義について考えること、もっと言うならミステリの社会的な側面についてとしてもいいかもしれない。
ミステリの失われた世界では、犯罪は超常現象として捉え直される。『探偵』は恐怖だが、人間の力ではどうしようもないものになる。その光景の奇妙さ、あるいは事件を解決する能力を有する少年検閲官の特権性は、クリスがミステリを取り戻す道標となり、ミステリの存在について改めて考え直す契機となる。
北山猛邦といえばメフィスト賞を22歳で受賞した佐藤友哉西尾維新と同世代の作家で、彼らと一緒にファウスト企画の文芸合宿に参加していたというくらいの情報しか持っていなかった。『少年検閲官』の世界観は、思考実験というより、ファンタジー小説の世界観といったほうがいいかもしれない。適当に集めた断片的な情報によると、北山猛邦の小説は幻想的な世界観とそれを表現する端正な文体、そして物理トリックによって特徴付けられるらしい。異名は「物理の北山」だとか。グーグルで検索してみると案の定予備校教師の宣伝が検索結果の半数ほどを占める。
彼の小説は積極的に読んでいくほどではないけど、難しい本に詰まったり、晦渋な文章を読むのが億劫になったときにまた手にとることになると思う。『少年検閲官』の直接の続編も近いうちに出版されるらしい。