『キャラクターズ』東浩紀, 桜坂洋

キャラクターズ

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5/24読了。今年55冊目。
批評家・東浩紀ライトノベル作家桜坂洋の共作小説。どちらがどこのパートを書いたのかはっきりさせておらず、作中でも序盤は交互に書き進めているが徐々に混乱していくような演出がなされている。
この小説が書かれた契機(とされているもの)は、佐藤友哉三島賞をとり、桜庭一樹直木賞をとってしまったことだ。東浩紀は文壇にはびこる自然主義的な私小説に限界を感じていて、新たなリアリズムによって文学シーンが塗り替えられることを望んでいた。しかし、ライトノベルを書いていたはずの佐藤友哉桜庭一樹は、文壇に媚びを売って文学賞をとってしまった。こうして小説のなかの東浩紀は立ち上がる決心をする。
たぶん、伝統的な私小説を新たなリアリズムによって解体する試みなのだと思う。阿部和重よりもラディカルで滑稽なかたちで人格は分裂し、作者・東浩紀とキャラクター・東浩紀のメタフィクショナルな関係は身も蓋もないほど作中で批評され、小説家と批評家の共同執筆によって小説と批評の境界は融解し、現実の論壇で活躍する人物たちは小説のなかでキャラクターとして描き直される。
ぼくは東浩紀のメタフィクショナルな批評が好きだった(そもそも東浩紀を読み始めたのも『九十九十九』論を読んだのが原因だった)。『キャラクターズ』はそのような批評が小説と組み合わされることで自己言及がさらに複雑になっている。だから、読んでいると当然楽しい。でもそれを超えていく何かが足りないように感じた。これは、「批評家が小説を書く」ということに関係しているのではないかと思う(これについては、『クォンタム・ファミリーズ』の感想のなかで書きたい)。