『彼岸過迄』夏目漱石

彼岸過迄 (新潮文庫)

彼岸過迄 (新潮文庫)

5/20くらい読了。今年54冊目。
後期三部作の一作目。約4ヶ月にわたって朝日新聞に連載された小説で、短編がいくつか集まって長編を構成している。
一見してつながりのないばらばらな短編群のようで、視点が敬太郎という人物であることは共通している。敬太郎は他の登場人物たちに何か働きかけるわけではなく、ひたすら観察し、話を聞くことに徹する。解説によると、柄谷行人は彼に精神分析的(探偵小説的)な主体を見ている(坂口安吾に対してと同様に)。敬太郎がある男性を監視するよう田口から依頼されるエピソードは、ポール・オースターを思わせるような不可解さがあり、確かに探偵小説的なのかもしれない、と思わされた。
須永の高木への嫉妬の描写はすさまじいもので、『こころ』の隠蔽された残酷さとはまた違う、漱石のひとつのピークではないかと思った。宵子の死のシーンは、『門』の御米が病気にかかって一晩闘病するシーンのもうひとつの形に思えて、背中がぞくっとする感覚があった。