『愛』ウラジーミル・ソローキン(亀山郁夫・訳)

愛 (文学の冒険シリーズ)

愛 (文学の冒険シリーズ)

4/23読了。今年45冊目。
面白かった。面白かったけれど、感想を書くのが非常に難しい。ぼくの今までの読書経験には似た作品がひとつもないし、言葉を尽くしてもこの感覚をうまく表現できない。
できる限りシンプルにいうと、『愛』は従来の文学を解体した作品集だ。でも、「文学を解体する」という言葉はありふれている。文学の枠組みから逸脱した作品ならいくらでもある。
具体的な例を挙げよう。一つ目の「愛」という作品は10ページに満たない短い小説だ。そのうち2ページくらいは点で埋め尽くされているので、普通に読めば5分で読み終わってしまう。冒頭は、老人が若者たちに向かって昔の話を語り始めるシーン。そして空白を挟んで、グロテスクな人体切断の描写。こうして愛は完成する。
正直なところ理解できない。もしウェブ上でこんな小説を読んだら、おそらく駄作と決めつけて無視していた。気まぐれで30分で捏造した恋愛小説の断片だろう、くらいに。他にも一読してすごいと思える作品は数編しかなく、それらも単独では価値を判断できないだろう。
それでもこの作品集はすごいと断言できる。とにかく何かすごいことが起こっているのはわかる。予定調和が完全に剥ぎ取られた世界。芸術ってこんなものなんだと片付けてしまってもよいくらいに、ぼくの日常からは遠い。こういったジャンルの作品とこれから向き合っていくかどうか、ぼくにそれだけの体力があるのかどうか、迷う。