『堕落論』坂口安吾

堕落論 (新潮文庫)

堕落論 (新潮文庫)

4/17読了。今年44冊目。
坂口安吾の評論・エッセーを集めた本。収録作品は「今後の寺院生活に対する私考」「FARCEに就て」「文学のふるさと」「日本文化私観」「芸道地に墜つ」「堕落論」「天皇小論」「続堕落論」「特攻隊に捧ぐ」「教祖の文学」「太宰治情死考」「戦争論」「ヨーロッパ的性格、ニッポン的性格」「飛騨・高山の抹殺」「歴史探偵方法論」「道鏡童子」「安吾下田外史」。解説として柄谷行人の「坂口安吾フロイト」が添えられている。
この本を買ったのは一昨年の秋、読み始めたのは去年の秋、それから少しずつ読み進めてやっと読み終わった。他に読むものがなくなったときに一編ずつ消化する、という読み方をした。
正直なところ、坂口安吾の文章は少し読みにくい。柔らかさを演出した文体が苦手、当時の日本についてぼくが無知、などの理由もあるけれど、もっとも大きいのは安吾の思考がシンプルでないからだと思う。解説で柄谷行人が論じているように、安吾は独力で後期フロイトが『快楽原則の彼岸』で示した「死の欲動」を体得しているが、前期フロイトの時点で愛想を尽かせて『快楽原則の彼岸』は読まなかったらしい。
堕落論」は一度ではよくわからなかったため数回読み返した。「堕落論」を若いころに読んで人生が変わったという話は何度か聞いていたので強烈なものを期待していたのだけれど、すごくポジティブでまっとうなことを言っているように感じた。
この本の前半は戦後の日本社会を論じたものが多い。これから日本はどうなるべきだ、天皇はこういうものだという話。後半は日本史や日本神話を論じたもの。日本史に関する知識が足りないせいか、「飛騨・高山の抹殺」「道鏡童子」はまったくわからなかった。方法論自体は「歴史探偵方法論」を読んで納得することができたので、柄谷行人安吾歴史観を評価する理由も理解できた。