『スカイ・クロラ』

スカイ・クロラ [DVD]

スカイ・クロラ [DVD]

森博嗣原作、押井守監督。この組み合わせだけで期待せずにはいられない。森博嗣は中学時代に読みあさった作家で、『スカイ・クロラ』は読んだなかで最も好きな作品のひとつだ。押井守も大好きな映画監督で、現実と虚構が交ざり合う感覚や演説のような長い語りには強く影響を受けた。そうして実際に見てみると、期待以上に面白い映画だった。
記憶が曖昧だから正確なところは何とも言えないけれど、森博嗣の原作の世界観は受け継がれているものの、テーマは完全に押井守のものに変奏されているように思える。原作は情報量が少ない、詩的な文章の小説だったけれど、そのまま映画にするとすかすかになってしまうからなのか、説明的なセリフも多くなっているし、世界観も読み取りやすくなっている。
それが悪いとは決して思っていない。むしろ、これほどバランスよく原作の要素とオリジナルの要素を融合できたのは、森博嗣押井守の個性がそれぞれに確立されている証拠なのだと思う。
テーマは『ビューティフル・ドリーマー』に近い。『ビューティフル・ドリーマー』では文化祭前日が繰り返されるのに対して、『スカイ・クロラ』では命をかけた緩慢な戦争が死ぬまで繰り返される。押井守はインタビューで、『スカイ・クロラ』は若者のために作ったと言っていた。それは、わかりやすいからというだけでなく、文化祭前日と同じものとして戦争を描いたからではないかと思う。
そしてそれは、成熟の問題に直結している。『スカイ・クロラ』の主要な登場人物は、みな成長しない「キルドレ」として描かれている。彼らは頻繁に煙草を吸ったりアルコールを飲んだり娼婦と買ったりするが、同時にとても子供っぽく刹那的に今を生きている。それと対照的なのが「ティーチャ」で、彼は戦況を調整する大人として配置される。子供は大人に勝てない。
ところで、犬が画面に映る頻度が相当高い。押井守は犬好きで有名だけど、でも主人公よりも多く映っているのではないかと疑うほど多い。ラストシーンも犬。まあ保坂和志で言うところの猫みたいなものなんだろうし、何となくイメージできるのだけれど。