『ノヴァーリスの引用』奥泉光

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

4/2読了。今年40冊目。
第15回野間文芸新人賞受賞作。同時受賞は保坂和志の『草の上の朝食』らしい。
お世話になった教授が亡くなったのを機に院生時代の4人の友人たちが一堂に会し、当時の事件について語り合う。同じ研究室に出入りしていた帰国子女の一風変わった青年・石塚の墜落死。推理小説マニアの松田は殺人事件として語りたがるので、ミステリの構造を保ったまま純文学の要素を組み込むのかと思ったけれど、結末までその空気が持続するわけではなく、最後は非現実的な展開になる。
この小説の焦点となる石塚という青年は、割と普通な登場人物が多いなかで強烈な個性を放っている。帰国子女で、ノヴァーリスに傾倒し、リュートを弾く。研究室では疎まれていて、卒論も哲学的なアフォリズム集。彼は20代で命を落としてしまうのだけれど、自殺なのか事故なのか他殺なのか判然としない。彼の人物像も、4人の語り合いのなかで新しい事実が思い返されるにつれてだんだんと変化してくる。
この小説は後になるにつれて新しい手がかりが思い出されて曖昧になっていく。推理小説における探偵たちの推理合戦は、別に真実を追い求めなくてもいいと思う。現実にある材料と矛盾しないように荒唐無稽な話を想像するという行為なのだと思う。
図書館で単行本を借りて読んだ。文庫には島田雅彦の解説がついているらしく、それも読んでみたかった。絶版のようで残念。