『最後の物たちの国で』ポール・オースター(訳:柴田元幸)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

3/28読了。今年39冊目。
物語の始まり方が他のオースターの作品とはかなり異なる。ひたすら「最後の物たちの国」の詩のような描写が続く。そこがいったいどういう国なのかという説明が執拗なくらいに繰り返される。この小説はもしかするとこのままずっと説明だけで終わってしまうのではと心配になったほどだ。30ページくらいでやっと、一般的な意味での物語が始まる。
語り口は、『鍵のかかった部屋』と『ムーン・パレス』の間をとったような感じだったけれど、語られる物語は退廃的で絶望的なものだ。舞台となる国は治安が悪くて貧しいディストピア。語り手は兄を捜してその国に入り、兄は見つからず、自分も国から出られなくなる。
でも、希望を持てるエンディングだったから、読後感は意外にも爽やかだった。読み始めたときに感じた違和感が読んでいるうちにだんだんと解消されていき、最後にはこの国における生活をしっかりと感じ取れるようになる。

でも、生活というのはそういうものを意味するのでしょうか? 何もかもがばらばらに崩れたあと、そこに何が残るかを見きわめること。もしかすると、それこそが一番興味深い問いなのかもしれません。何もなくなってしまったあとに、何が起きるのか。何もなくなったあとに起きることをも、我々は生き抜くことができるのか。(37頁)

7月に『ムーン・パレス』を読んでから刊行順に読んでいき、邦訳されているなかでは最新の『幻影の書』を12月に読み、長編デビュー作の『孤独の発明』に戻ってまた刊行順に読み、『ムーン・パレス』の一つ前の作品である『最後の物たちの国で』に辿り着いた。これで翻訳されている全長編を読んだことになる。