『鍵のかかった部屋』ポール・オースター(訳:柴田元幸)

鍵のかかった部屋 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

鍵のかかった部屋 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

3/24読了。今年36冊目。
〈ニューヨーク三部作〉の三作目。原題はLocked Room、すなわち密室だけれども、ミステリのガジェットとしての密室は登場せず、メタファーとしての「鍵のかかった部屋」についての語られる。
前二作に比べるとかなり哲学小説としての色は薄まって、普通の推理小説としても読めそう。『ガラスの街』や『幽霊たち』と繋がるところも多く、三部作の結びつきがよくわかった。物語としてはつながりがないにも関わらず常に三部作として紹介されるのにも納得がいった。
主人公は新進気鋭の批評家。昔の親友のハラショーが失踪したというニュースが舞い込む。彼はずっと小説をかきためていて、主人公はそれを世に出す役割を背負うことになる。このようにあらすじを書くとまるで推理小説のようだが、主人公がハラショーの立場・体験をトレースしたり、世間で「ハラショー=主人公」という噂が流れたり、前の二作よりも具体的に似たテーマを深めていくのが面白かった。
『幽霊たち』に続いて『鍵のかかった部屋』にも、『クリスマス・テロル』にそのまま引用された部分が散見される。ラストシーンはあまりにもそっくりで、『クリスマス・テロル』に対して腹を立てる人はこういうところが気に入らなかったのだろうか。