『幽霊たち』ポール・オースター(訳:柴田元幸)

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

3/22読了。今年35冊目。
〈ニューヨーク三部作〉の二作目。
オースターといえば過去形で理路整然とした落ち着いた文体のイメージがあるが、『幽霊たち』は珍しく現在形を多用したテンポのよい文体で書かれている。登場人物の名前はすべて色にちなんでいて、主人公は私立探偵ブルー、依頼主はホワイト、といった感じ。記号的な雰囲気が漂っていて、本の薄さも相まってとても読みやすかった。
テーマは『ガラスの街』に続いて、アイデンティティが曖昧になって融解してしまうみたいな、そういうもの。主人公が向かいの部屋でひたすら執筆している人物の監視を頼まれるという展開は、佐藤友哉が『クリスマス・テロル』でそのまま引用しているけれど、そちらが「小説を書くこと、作家として生きること」に焦点を当てているのに対して、『幽霊たち』はより広い意味でのアイデンティティを扱っているように感じた。