『青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編』佐藤友哉

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

青酸クリームソーダ〈鏡家サーガ〉入門編 (講談社ノベルス)

2/28読了。今年25冊目。
鏡公彦は少女が男に竹ヤリを突き刺しているのを目撃する(冒頭)。彼はコンビニ袋を放り出して逃げるが、少女に捕まって竹ヤリを突きつけられ、こう言われる。「責任をとってよ」。
ぼくにはこのシーンが、佐藤友哉とファンとの対話にしか見えなかった。鏡家サーガを読んで自意識過剰になって友達がいなくなった少女が、佐藤友哉鏡公彦)に向かって、「(人生メチャクチャにした)責任をとってよ」と文句を言っているようにしかとれない。
こんな感じで、『青酸クリームソーダ』には全編を通して、鏡家サーガ本編、あるいはそれを執筆していた時期の佐藤友哉に対する批評意識が透けて見える。当然といえば当然で、佐藤友哉は自分の青春を痛々しく仕立て上げて鏡家サーガを書いていたのだから、それから約5年が経過して、当時の自分をパロディー化しないわけがない。しかし、だからといって決してパロディーに徹するのではなく、鏡家サーガらしい展開も多く、やっぱりこれは佐藤友哉にしか書けないよなあ、と感心した。
それらをふまえた上で全体を眺めてみて、『青酸クリームソーダ』が傑作であるかというと、首を傾げざるをえない。それはおそらく鏡家サーガ本編にはあった切実さが不足しているからで、それは仕方のないことだ。『灰色のダイエットコカコーラ』の結末からもわかるように、佐藤友哉は「近代的な成熟」を完全に拒否しているわけではない。
それでも鏡家サーガを書き続けて欲しいか尋ねられたら、まだ読みたいという気持ちと、もうこのままにしておいて欲しいという気持ちが半分半分で、個人的には純文学サイドに期待したい。というわけでもうすぐ『デンデラ』を読む。これで単行本化した作品はたぶん全部。
佐藤友哉の作品相手になると急に偉そうな口調になるのやめたい。