「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」


監督・脚本・製作: ポール・トーマス・アンダーソン。2007年。
第80回アカデミー賞で主演男優賞と撮影賞を受賞した作品。
ほんとうに面白い映画だった。見ている間に何度も何度も心を揺さぶられ、見終わった後もずっと余韻が残った。
序盤では、主人公は石油を掘り出す実業家として次々に成功を収める。彼はいつも息子をパートナーとして連れ歩き、交渉にも二人で臨んでいた。あっという間に息子は赤ん坊から少年へと成長し、そして主人公の成功が途絶えるときがやってくる。石油が出るという情報を聞きつけて訪れた村で、試掘中に爆発事故が起こり、彼の息子は難聴になってしまう。
この火事の描写がすごい。この映画は20世紀の初めの地方が舞台となっているため、映像は常に乾いた印象で、ひたすら過酷な作業場の現実だけが連ねられている。しかし、この火事のシーンはファンタジー映画が霞んでしまうくらいの激しい映像になっている。背景には真っ赤な穴が世界の終わりみたいな勢いでゆらめき、その手前では巨大なやぐらが燃えさかっている。それが圧倒的なリアリティで押し寄せてきて、参りましたとでも言うように主人公は両手を挙げる。もし文芸作品であるならここに文章を引用することができるのだけれど、映画ではそれができないから難しい。
このシーンを境に、事業はだんだんとうまくいかなくなっていく。むりやり土地を買い取ったり、息子を手放そうとしたりしながら、彼はラストまで転がり落ちてゆく。見終わったときに初めて、自分が完璧にこの映画に圧倒されていることに気がついた。