『ABC―阿部和重初期作品集』阿部和重
- 作者: 阿部和重
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/04/15
- メディア: 文庫
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「ABC戦争」
まず一編だけ読んだ。発表順序では次は『インディヴィジュアル・プロジェクション』だから、いったんこの本は置いて、そちらを読みます。
とても面白かった。『アメリカの夜』も面白かったけど、それに劣らぬ面白さだった。
『アメリカの夜』に比べて、現代思想や映画批評の引用(引用のしかたがいちいち面白い)がさらにあからさまになっていた。急にフーコーやデリダの名前が登場して、それがトイレの落書きに適用されていたりするのだから、笑わずにはいられないのだけど、真剣に読んでいたりもする。もはやギャグであるかどうかなんてどうでもよくなる。一言で説明してしまえば、偏執的な真面目くさった語り口でどうでもよい不良の戦争を読み解く話。不良の権力構造の描写を読むと、まるでデリダの入門書を読んだときに味わったような感覚に襲われる。それが狙っているのかどうかは不明だけど、意味深な語られ方をするとそういった勘違いを煽られる。
『アメリカの夜』で扱われた自意識の問題が、今度はテーマの中心から外れていたのだけれど、メタフィクショナルな構造はしっかりと用いられている。けっきょく「わたし」と「手記の筆者」の関係はよくわからなかったけれども、もう既に再読する気が湧いているので、またいつか読み返すときにその問題は放置しておこうと思う。