『人格転移の殺人』西澤保彦

人格転移の殺人 (講談社文庫)

人格転移の殺人 (講談社文庫)

10/26読了。今年107冊目。
ここ何ヶ月か、佐藤友哉のルーツを探る目的でミステリを読んでいるのだけど、その影響なのか、先週突然『七回死んだ男』の感動が蘇ってきて、計画を変更してさっそく『人格転移の殺人』を読んだ。やっぱり傑作と評価されるだけあって、とても面白かった。ほんとうに純粋な意味でのエンターテイメントを、そうでない要素を極限まで除外することによって生成するならば、それはこういった形になるのではないか、とまで思った(もちろん、「ぼくにとって」の話)。すべての本格ミステリは、いかに意外性を持った真相でも、それが現実に実現可能な出来事である限り、感動には限界がある。叙述トリックに無限の可能性を感じたりもしたけれども、それもある程度分類可能で、慣れてしまう。それならば、初めから現実にはないようなトリッキーな設定を持ち出してきて、その設定をいじることによって意外性を作り出してしまおう、というのがこのシリーズの発想だと思う。それは成功しているし、現実が舞台ではありえないすっきりとした感動を作り出している。
本格ミステリには様式美のようなものがあり、そういった形式に自覚的であることによって魅力的なメタミステリやアンチミステリ、そしてもちろん純粋な本格ミステリが生まれるのだと思う。でも、逆に本格ミステリのままで、目新しいエンターテイメント性を生み出そうとするのなら、こういった方法しかないのかもしれない。