『ミスター・ヴァーティゴ』ポール・オースター(訳:柴田元幸)

ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)

9/21読了。今年91冊目。
オースターの1994年の作品。貧民街で育った少年が空を飛んだりスターになったりする山あり谷ありの人生を、自伝の形式で語る小説。やっぱり今回も、もうすべて終わってしまった事件を後の時代から回顧するという語り口だった。
英語の一人称はすべて「I」だと思うのだけど、今まで読んだオースター作品はすべて語り手の一人称が違った。あまりはっきりとは覚えていないけど、『ムーン・パレス』では「僕」、『偶然の音楽』では三人称、『リヴァイアサン』は「私」、『ミスター・ヴァーティゴ』では「俺」が用いられていた。読んだ後に思い返してみると別々の作品に似たようなモチーフが出てきていたりするのだけど、作品に合わせて言葉づかいがまったく違うから印象も違い、読みながら考えることもまったく違ってくる。私小説ではこうはいかないから、楽しみ方がかわってくる。どの作品の主人公も同じような人物だったり、別の作品に同じような記述がでてくることを逆に楽しむような感じ。
ともあれ、作品ごとにまったく新しいことに挑戦して、そのたびに完成度が高くておもしろい小説を書くことに成功しているポール・オースターはほんとうにすごいと思う。作品中に「ティンブクトゥ」という言葉が出てきて、次の作品の『ティンブクトゥ』と『ミスター・ヴァーティゴ』の関連性が気になるので、そのうち読みます。