『アメリカの夜』阿部和重

アメリカの夜 (講談社文庫)

アメリカの夜 (講談社文庫)

9/6読了。今年89冊目。
第37回(1994年)の群像新人文学賞受賞作品。阿部和重のデビュー作。とてもおもしろかった。ありとあらゆる部分がおもしろいのだけど、そのほとんどはうまく言葉にすることができないので、二点だけ。
アメリカの夜』は中山唯生の物語だ。語り手は唯生の別人格で、実体を持たない。しかし、初めはそのことは隠されている。そして、まったく唐突に、私は唯生の分身だと告白を始める。けっこうどうでもいいようなエピソードだけど、ねぜかぼくは度肝を抜かれて、「私」のまじめくさった語り口がよりいっそう好きになった。
唯生の思想の遍歴をたどるうえで、たくさんの本が引用される。『ドン・キホーテ』、『ヴァリス』、『神聖喜劇』、……。唯生はそれぞれに過剰に影響されながら、自分の特異性・固有性をでっちあげ続ける。その気持ちが痛いくらいよくわかって、なんだか恥ずかしい気持ちになってしまった。きっと誰にでもよくある経験だろうし、あまりの子供っぽさに恥ずかしくなってしまうものだと思う。でも、この小説の語り手は唯生本人ではなく、その分身だ。だから、冷静に、客観的に、平然と語る。そういった細かい点でも、新鮮な体験ができる小説だと思う。