『戦闘妖精・雪風〈改〉』神林長平

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

8/26読了。今年84冊目。
今年、第三作目の『アンブロークンアロー』が出版された雪風シリーズの一作目。神林長平の代表作。アマゾンのレビューの評価がとても高い。アマゾンでこんなに賞賛されている作品は初めて見た。
謎の異性体ジャムと戦うFAFのエースパイロット深井零を通して実存とか他者とか人間とかについて考える、という話なんだと思う。でも正直なところ、あまり楽しめなかった。戦闘機に関する知識がまったくなくて、空中戦の描写がまったくわからなかったことはしかたないのだけど、哲学的なテーマもあまり伝わってこなかった。少しわざとらしい気がして、あまり面白くなかった。そんなに仰々しく提示するような話題でもない気がする。もっと日常的なできごとの中に潜んでいる話題だと思う。
そんなふうに、読んでいる間は思っていた。でも、読み終わってから考えてみると、ぼくがこの作品を楽しめなかったのはほんの些細なことが原因ではないか、と思った。
一つ目は、時代の問題ではないか、ということ。この小説が書かれてから、ぼくが生まれるまで10年くらいの隔たりがある。その間に、ソ連が崩壊し、明確な「敵」は失われた。そしてぼくはそのあとの時代しか知らない。つまり、この作品が提示した「敵」の感覚は当時は先進的だったけれど、いまはもう当たり前になっていて、ぼくにはその先見の明がわからないのではないだろうか。他の点に関しても、そういった時代性が絡んでいるのかもしれないと思う。
二つ目はもっと単純な問題で、文章が合わなかっただけなのではないか、と思う。実感として、なんとなく気に入らないような気がする。青春小説の『七胴落とし』はとても肌に合ったのだけども、それとはかなり文体が違う。ちょっと堅苦しいのが苦手なのかもしれない。
けっきょくのところ、別に神林長平の思想や方法が合わなかったのではなく、あくまで個人的な好みとして『雪風』はあまりしっくりこなかったのだと思う。もし時代の問題なら、『グッドラック』以降は楽しめるかもしれないし、少なくとも他のシリーズは楽しめると思う。特に火星三部作は気になる。またいつか読みたい。