『魔夢十夜』小森健太朗

魔夢十夜 (ミステリー・リーグ)

魔夢十夜 (ミステリー・リーグ)

8/16読了。今年82冊目。
16歳のときに『ローウェル城の密室』が江戸川乱歩賞の最終候補作になり、東大の文学部哲学科を出て、1994年に正式にデビューしたという作者の経歴にまず驚く。そしていったいどんな衒学的な作品を書くんだろうかと覚悟して読み始めると、意外にもオーソドックスな推理小説だった。
高校の文芸部で起こった殺人事件を、とある新入部員の視点から綴るという形式。頻繁に中国の『易経』が引用され、神秘的で魔術的な雰囲気が醸し出されている。暗号もたくさん出てきて読み飽きないし、キャラクターの個性が強く、うまく書き分けられているため混乱しない。
文章も簡潔で、完全に設計して書かれているように思えた。これだけまとまった推理小説でありながら神秘思想への愛も感じられて、一筋縄ではいかない作家なのだと思う。評論や他の小説にも手を出したい。