『NHKにようこそ!』滝本竜彦

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

8/12読了。今年80冊目。

ひきこもりの大ベテラン佐藤は気づいてしまった。人々をひきこもりの道へと誘惑する巨大組織の陰謀を!――といってどうすることもなく過ごす佐藤の前に現れた美少女・岬。彼女は天使なのか、それとも……。

あらすじからも明らかなのだけど、この小説はきわめて滑稽だ。いちいちギャグは寒いし、描写やキャラクター造型もぎこちない。そしてなにより、ぼくがもっとも気になったのは、主人公(語り手)の一人称が「俺」だったことだ。読みながら、こんなひきこもり的な自意識を持ちながら、どうして虚勢をはったりするのだろうと、そこのところがずっとひっかかっていた。しかし、あとがきで急に一人称が「僕」になり、自分の体験を小説の中に描く恥ずかしさを告白し始めることで、その疑問は解決する。その恥ずかしさを隠すために、滝本竜彦ははりぼての主人公を作り上げ、どこまでも虚構におしこもうとした。なるほど、そういうことだったのかと納得してすっきり終わりを迎えるはずが、その四年後に書かれた文庫版のあとがきで、またしても彼は虚構の自分を作り上げている。今度の一人称は「私」で、『NHKにようこそ!』が完全に自分とは関係ないものであるかのように、セールストークと宗教的な妄言を書いている。ぼくには、ほんとうに辛い執筆体験だったのだろうな、と想像することしかできない。