『肝心の子供』磯崎憲一郎

肝心の子供

肝心の子供

8/5読了。今年76冊目。
第44回文藝賞受賞作品。最近芥川賞をとって話題の磯崎憲一郎のデビュー作。
『眼と太陽』よりはるかにわかりやすい。わかりやすいというのは、影響を受けたもとの作品を想像しやすいことが原因だと思う。少しずつ、積み重ねるようにして書かれたのではないだろうか、と想像した。
親子三代の歴史を、たった100ページ強で語っている。『百年の孤独』に比べると、かなり短く、詳しく描写されているとは言い難い。しかし、逆に『肝心の子供』は「書かれなかったもの」に注目すべき作品なのではないか、と思う。たとえば、ブッダの細かい布教生活は描かれない。もしブッダ歴史小説を書こうと思ったら、そこは中心となるべき箇所だ。つまり、この作品はそういった伝記的記述に興味がない。ではなぜ書かれなかったのかというと、それが不要だったからとかあえて書かなかったとかではなく、ただ書かなかったからとしか答えようがないのではないだろうか。ただ書いたあとに振り返ってみると、その部分はなかった。つまり、「書かれなかったもの」は作家の無意識の中で選択されていて、ある意味ではとても自然な結果なんだと思う。それを見ることでふだん日常の中での語りの恣意性が見いだせるような気がする。