『ハーモニー』伊藤計劃

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

7/24読了。今年68冊目。
なかなかこの小説の感想が書けなくて困っている。どうしてもディストピアへの恐怖の告白になってしまい、まともな感想が出てこない。それだけこの小説はぼくにとって切実な問題を扱っているし、読んでいる期間は四六時中ディストピアのことを考えていた。だから世界観のことはひとまず放置して、そのほかのことについて。アマゾンのレビューでは「パト2」とそっくりすぎるという批判があったけど、じっさいこの小説ではサブカルチャーに対する引用が『虐殺機関』よりも多いと感じた。もっとも、ぼくが軍事系の作品にほとんど触れていないことも原因としてある。章の題名はすべてナイン・インチ・ネイルズの曲名からの引用で、表面的には穏やかで健康的でも内実は殺伐としている世界観を暗に示しているのだろうかと思った。この小説はずっと女性(少女)の一人称で語られていて、どこか軽々しい感じがつきまとう。最後もセカイの命運を握りながら、「きみとぼく」からの決定をするといういかにもセカイ系の作品なんだけど、でもディストピアというのはミクロレベルから無限に増殖して広がっていくようなイメージがあるので、まさにそれを反映しているのかもしれないと思って読んだ。