『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

7/4読了。今年62冊目。
春に『アラビアの夜の種族』を読んで、よくわからない小説だと思った。RPGから影響を受けたような表現があったから、そういう部分で評価されているのだろうか、と考えていた。ぼくはRPGに関してほとんど何も知らないから、その世界観を小説で表現することのすごさがわかっていないのだろう、と。でも『百年の孤独』を咀嚼し、その文学史上の意味合いや魅力を知るにつれて、だんだんと『アラビアの夜の種族』の方も魅力がわかってきたようなきがしていた。
そして、『ベルカ、吠えないのか?』を読むことによって、古川日出男の特徴やよい点が把握できてきた。この物語の舞台は世界全体に広がっていて、しかし、その中心となるのはソ連だ。そしてその寒さが強調されている。だから今の季節感とはミスマッチなのだけれど、扇風機のスイッチを「強」にして、ロシアの極寒の吹雪を想像しながらラストシーンを読んだ。古川日出男の独特な無骨な文体は、さらっと読んでしまえば少し変わった文体というていどだけど、読んでいるうちにその力強さを感じ取れるようになった。だんだんと体に馴染んでくるような感じ。
この物語は1943年にアリューシャン列島のキスカ島という小さな無人島に取り残された4頭のイヌから始まる。家系図を作ると『百年の孤独』のように複雑になりそうな、「歴史」を構築する作品だった。しかし、登場するのは人ではなくイヌだ。舞台は世界中にちらばり、やがてソ連の革命へと収斂する。そして、「歴史の終わり」が訪れる。

これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。
おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、
この世にフィクション以外のなにがあるとおもってるんだ?(6ページ)