「アヴァロン」

アヴァロン Avalon [DVD]

アヴァロン Avalon [DVD]

押井守が『Ghost in the Shell/攻殻機動隊』以来の沈黙を破って監督した実写映画。全編をポーランドでロケーション撮影し、それをデジタル画像処理システム・ドミノで加工。現実世界と仮想空間を描写してみせた、実験的な意欲作。
非合法の仮想戦闘体感ゲームAvalon」の蔓延する、荒れ果てた近未来。かつての仲間だったスタンナからフィールド・クラスAに現れるという隠れキャラ・ゴーストの存在を知るアッシュ。ゴーストこそが、獲得できる経験値も法外なクラスSAに通じるゲートだというが、ゴーストを追った者は例外なくロストしてしまう…。 そもそもは仕事がない時期、ゲームに明け暮れていた押井監督が「パチンコで金は稼げるのに、なんでゲームは稼げないのだろう?」と考え、ゲーム・プレイヤーを主人公にした映画を構想したことがきっかけで誕生した作品。「デジタルの地平で、すべての映画はアニメになる」とは、この作品を象徴する押井監督の言葉。(斉藤守彦

監督:押井守。音楽:川井憲次。2000年。
押井守の実写映画。テーマはいつも通り現実と仮想についてだが、仮想オンラインゲームを舞台として表現している。
まずなにより映像が圧倒的。「ブレードランナー」に影響を受けたような、「攻殻機動隊」などにも見られる多国籍的、人種の坩堝的な都市の描き方ではなく、洗練された東欧の街並みを舞台にして撮影されている。全編にわたって靄がかかったような幻想的な色を帯びている。「アヴァロン」で用いられた手法が「イノセンス」にも使われているらしいけれど、そこで描かれているものは相反するものだ。ぼくも東欧の世界観が大好きなので、眺めているだけで楽しい。
イノセンス」のキムの訪問のシーンが特徴的だけれど、押井守は現実と仮想の「混乱」を描くことが多いと思う。それに対してこの映画で描かれるのは、現実と仮想の「反転」だと感じた。現実と信じていた世界が実は仮想であり、しかし実は現実も仮想で……という連続する「反転」と美しい映像に酔う、そういう映画だった。