『カンバセイション・ピース』保坂和志

カンバセイション・ピース

カンバセイション・ピース

この家の中では、失われたものたちも取り戻せる――幻の家を描く著者最高傑作!
小説家の「私」は、かつて伯父と暮らした築五十年の家に妻と猫とともに移り住むことになった。過去に住んでいた人たちの記憶が濃厚に染み込んでいる家のなかで、「私」は時空を超えた生のシンフォニーを聞く。家という空間をかつてなく魅力的に静かにライトアップし、「小津安二郎の映画のよう」(朝日新聞)と絶賛された、待望の長編。

3/4読了。今年18冊目。
「私」が感じたことと、家族や猫との触れ合いをそのまま文章にしたような小説。それでいて退屈せず読むことができる。思いつきも過去の回想もそのまま書かれている。

……ギターを弾いている浩介を見ていると私は考えてしまうのだが、しかしこの「見ている」という言い方は嘘で、二階の部屋で私がこう考えたとき浩介は目の前にいなくて、「三人の飯のタネを探しに行ってくる」と言って午前中からどこかに出掛けていた。(309~310頁)

風邪を引いて寝込んでいるあいだの描写は、ほとんど音と「私」の想像でできている。「私」の思いつきの中には一読するだけではわかりにくいものもあったけど、流れを重視してあえて流し読みした。それでも十分に「私」の生命への感触は味わえたと思う。
この小説の舞台である鎌倉には、去年の年末に東京旅行の行程の中で訪れたので、なんとなく土地の雰囲気はイメージできた。とは言っても、この小説の九割は家の中の会話で構成されているため、鎌倉という町はあまり重要ではなかったのだけど。
ぼくはまだまだ未熟で、「家」への執着は感じたことがないので、まだ20年後くらいに読めば感じ方もだいぶ違うのだと思う。