『ナイン・ストーリーズ』J・D・サリンジャー(柴田元幸・訳)

ナイン・ストーリーズ

ナイン・ストーリーズ

12/9読了。123冊目。
まるで野崎孝訳を執拗に避けているみたいだけど、柴田元幸訳を選んだのは、ただ偶然これが図書館にあったというだけの話。
書かれていることはどの短編もとてもシンプルだ。飾らない文体で、固有名詞が多い。会話は直線的でなく、ときには成立し得ない。でも、誰にでも書けそうで、誰にも書けない。誰にでも読めそうで、誰にも読めない。この九編からなら、どんな解釈もひきだせそうで、しかし同時にどんな解釈も許されないような緊張感がある。サリンジャーがあまり多く小説を残さなかったのは、少しだけでじゅうぶん足りてしまったからではないだろうか。この短編集にはそれだけの密度があると思った。
気に入ったのは、軍人が合唱団の少女と喫茶店でおしゃべりする話と、自意識過剰な画家の話。題名は忘れた。
追記:「エズメに――愛と悲惨をこめて」と「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」でした。