『秋期限定栗きんとん事件〈下〉』米澤穂信

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

11/13読了。今年117冊目。

「ねえ。小鳩ちゃんってさ。……あたしの何が好きでつきあってるの?」
 何と言われると、いろいろなんだけど。
 だけど、デートに遅れた彼女に「ごめん、待った?」と言われれば「いや、いまきたとこ」と答えるように、その質問への回答をぼくは既に用意している。親指についてしまったアヴォカドペーストをペーパータオルで拭いながら、ぼくは答えた。
「誰かと一緒にいる理由を言葉にしようとするのは、何かの間違いのもとだと思う。わかるでしょ?」
 仲丸さんは黙ってホットコーヒーを一口飲んで、それから顔を上げて笑った。
「ぜんぜんわかんない」(72ページ)

「ぼくも少しは手伝ったけど。でも、みんなの力さ!」(189ページ)

 ぼくたちが小市民を名乗るのは、本来的に自意識過剰なことだ。一人だとそれが身に染みる。だけど小山内さんと二人でいると、その痛々しさが軽くなってしまう。ぼくは小山内さんに自分の思い上がりを許され、小山内さんはぼくに彼女のそれを許される。(210ページ)

一点の曇りもなく青春小説。ぼくには触れられない領域。
『春季限定』ではあくまで「日常の謎」がテーマのミステリ短編集だった。それが『夏季限定』を経て、『秋期限定』では「日常の謎」は味付けでしかなく、メインはあくまで小鳩くんと小山内さんの高校生活。高校に入学した頃は無垢に「小市民」を目指していたけど、あきらめたりしながらも、ちょうどいい場所におさまったゆくのは心地よい。ぼくもこんなふうにうまくゆけばよいのだけど。
野暮なことを言ってしまわないように、引用を多めにして自分の文章はほんの少しだけにしておこう。