『楽園への疾走』J・G・バラード

楽園への疾走 (創元SF文庫)

楽園への疾走 (創元SF文庫)

6/11読了。今年56冊目。
16歳の少年ニールは、アホウドリを救うための運動をしている40歳の女性ドクター・バーバラに惹かれていた。やがてこの運動は日の目を見て、サン・エスプリ島という無人島が絶滅危惧種の保護地帯として確保される。そこに何人かの老若男女が集まり、まるで『蠅の王』のように狂っていくという話。狂い方がゆるやかで、だらだらと読んでいると狂っていることに気がつかなくて、読むのを中断して初めて気づいたりした。ニールはドクター・バーバラに陶酔していて、彼女がどう考えてもおかしな行為をしても、それがニールにとって不都合なことであっても、肯定してしまう。だからきっとニール本人も狂いかけていて、しかしメンバーの中で唯一最後まで気を保った。そこにあるのは冷静な観察眼や広い視野などではなく、彼の自意識の弱さだったのではないだろうか、と思った。