『バイバイ、エンジェル』笠井潔

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体は、あるべき場所に首がなかった。こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追う。ヴァン・ダインを彷彿とさせる重厚な本格推理の傑作、いよいよ登場。

11/18読了。今年89冊目。
ミステリーを心から楽しめなくなった僕にとって、ミステリー本来の娯楽性とは少しずれるかもしれないが、きっと楽しめるだろうと思って読んだ。フランスを舞台としていることや、矢吹駆の特異な人物像はもちろんだが、何よりも楽しかったのは思想的な対話だ。ミステリーを現象学的に分析してみるのにも驚いたけれど、『悪霊』や『罪と罰』を想起させる革命や殺人についての思索に最も大きな感動を覚えた。もちろんこれは思想文学ではなくあくまでもミステリーだ。でも、ミステリーが大好きでこの本にも何度か挑戦しかけた13才の時点では、きっとなにも理解できず、ただの推理小説として読み終わり二度と取り出してくることもなかっただろうと思うと、このタイミングで読んだことでミステリーの面白さを思い出す大きな手助けになったことがとても嬉しい。