『幻影の書』ポール・オースター(柴田元幸・訳)

幻影の書

幻影の書

12/27読了。今年140冊目。

救いとなる幻影を求めて――オースターの魅力のすべてが詰め込まれた最高傑作長編!
妻と息子を飛行機事故で失うという人生の危機の中で、生きる気力を引き起こさせてくれた映画の一場面。主人公はその監督ヘクターについて調べてゆくことで、正気を取り戻す。ヘクターはサイレント時代末期に失踪し、死んだと思われていた。しかしある女性から実は生きていると知らされる……。意表をつくストーリー、壮絶で感動的な長編。

翻訳されている中ではオースターの最新作。次はデビュー作に遡って『孤独の発明』を読む予定。
すごくおもしろかった。全体を通してひとつの物語としておもしろいだけでなく、挿入される映画や評論もとても素晴らしい。映画をここまで魅力的に文章で表現できることに驚いた。秋に『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の感想を書こうとして、どこから書けばよいのかわからず戸惑った。あるシーンを表現しようとしてもまったくできなくて、結局適当に書いて妥協した。映画を文章で表現するなんてもともと無理なんだ、と自分に言い訳した。でもオースターの文章を読んで、それがまったくの間違いであることを知った。確かに映画は映像と音で構成されていて、文章とは互換性がない。しかし、また別の形であれ、映画の素晴らしさを伝えることはできる。
柴田元幸が後書きで書いているように、オースターのストーリーテラーとしての能力が最も発揮された作品だと思った。いつもどおりの硬質で冷静な文章で、意表を突く展開や壮大な出来事が語られている。終盤の狂気を感じさせるようなエピソードは鳥肌もので、小説を読んでこんな気持ちになったのはいつぶりだろう、と思った。